サブマリンについて

伊坂幸太郎の『チルドレン』という小説が物凄く好きだった。学生時代に読んで何だか学校に居心地の悪さを感じてさぼりがちで多方面に迷惑を被っていたころの話になるんだけど、その中でも唯一といっていいほど仲が良かった友達に例によってさぼりながら村上春樹を読んでるところを見つかって「村上春樹すきなんだ」って突然言われて「これが好きなんだよね。俺は」と見せられたのが伊坂幸太郎の『重力ピエロ』だった。その日の帰りブックオフで『重力ピエロ』を買って帰ってその日のうちに読んでしまったのを覚えてる。なんて面白いんだろ!とまだ読んでない作品がたくさんあるのにワクワクした。

 

何冊目に読んだのかはまったく覚えていないんだけど、『チルドレン』を読んだのもその流れだった。その中にでてくる陣内さんという人間がたまらなく好きになった。とにかく無茶苦茶で奇抜で負けず嫌い、他人の迷惑省みず、自信家なのに適当な事ばかり発言して、それでもずば抜けて魅力的なのだ。

 

本自体は短編集なんだけども、基本的にはこの陣内さんを中心に話が回っていく、時代が前後したりはするが短編同士つながりがあって読み終わった時の爽快感がすごい。家庭裁判所の調査官である陣内さんとその周りの普通とは言い難い登場人物たちが非行少年たち相手に奇跡を起こす爽快な話がリズミカルに入ってる短編で、私が一番好きな伊坂幸太郎作品だったのだ。

 

なんで今その本の話をするかって言うと実は読書から離れてる間になんと続編『サブマリン』がでていたのである。それも長編。

 

学生以来の陣内さんと再会はドキドキだったよ。そりゃ初恋の人に10年ぶりに会うようなもんだし。でも相変わらず少年事件を担当する家裁捜査官とは思えない奔放ぶり、社会人になった私には学生時代より刺さる。なんだろう、すごく羨ましい。でもそれ以上に10年以上たっても陣内さんはずっと輝けるヒーロー像として君臨している事がなによりも嬉しい。

 

題材もとても良かった。簡単に言えば「無免許運転であるいてるおじさんひき殺しちゃった子供の事件」を陣内さんと主人公である武藤さんが担当していく話なんだけど、何が悪で何が善で誰が救われるべきなのか誰が罰せられるべきなのか考えさせられる話だった。やるせない、どうしようもない事が世の中たくさんあるんだけどもちろんそれだけじゃないし、うまく説明できない、わからない。理屈じゃない。そんな問いかけがたくさん出てきて主人公が揺れ動いて模索する中、陣内さんはそれでもやっぱり真っ直ぐやることやってるんだ。それがもうたまらなくかっこよくて、子どもの頃読んだ彼はハチャメチャな大人だったんだけど、この年になって読んでもずっとハチャメチャでそれに子供の頃の自分が思ってる以上にハチャメチャでとんでもない大人だったんだけど、びっくりするくらいヒーローだったわけで、前作でいってた「大人がかっこよければ子供はぐれないんだよ」ってのを体現しているようでたまらなかった。

 

作中で「なんだろうね、あの人」とか「あの人馬鹿なんじゃないですか?」とか散々子供たちに言われる陣内さんだけど、そのどれにも子供たちからの感謝とか、愛情がこもってるように思えて、すごくいいなって思う。人間臭くて、かっこいいんだよ陣内さんは。

 

とにかくホントに読んで良かった。

『チルドレン』も、『サブマリン』もおススメです。

もし読んだら感想聞かせてください。

 

 

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

 

 

 

サブマリン

サブマリン